日本画の杜 第五章 「森から」 2016・11

 

第五章 「森から」

 

 

   

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                         「森から」15号P 1991年制作

 

 

 

 

         10月半ばからずっと暖かい日が続いていた。

 

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       浅黄斑は相変わらず飛び回っていた 菊の花が好きなのか

       熱心に蜜を吸っている カメラを近づけても全く動じない

 

 

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  野菊が満開になると しめやかな香りと共に秋の冷気を感じるはずなのに

  まだまだ暖かい。 菊は夏の花のように陽気に咲き続けた。

 

 

 

 

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富士山に初雪が降ったのは10月26日 観測史上最も遅い 今にも溶けそうな淡雪だった 

例年なら 十一月に入るとせかされるように冬の支度をするのだが 今年はのんびりと庭で過ごしたりしていた。 それでも十日を過ぎるころから 少し風が冷たくなって来

たので 薔薇の根方を覆ったり 寒肥をやったり いつ雪に降り込められても良いように猫のご飯を買いに行ったり 庭のベンチを床下に仕舞ったりりと忙しくしていた。

車の整備も欠かせない。

  

 

十一月は一年の内で一番忙しいのだが 紅葉の美しい季節でもある。

近くの牧草地に富士山を見にゆく。山道を走る私の車はこの世ではないところへ迷い込んでゆくようだった。美しい秋の午後 至福の時を過ごした。

 

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        夜の森には大きな月が出て鹿の鳴き声も聞こえる

 

森は神秘に満ちている。冒頭の作品「森から」は1991年に開催した個展 <前本利彦展CANON  ヴィスクドールの主題による>の出品作である。

当時は森ではなく 海沿いの町に住んでいた。前本は幼少期 故郷の森や川で遊びまわっていたらしい。海には馴染めないようだった。

私はここに住んでみて 森がこの作品の通りなのに驚いた。

 

 

 

私達は 秋がくれば秋そのものの一部になってしまう。夏には夏の中に溶け込み 春は春の中に 冬がくれば私達は冬となってしまう。当たり前のようで 不思議な経験だ。

自然の偉大さとはこの様なものかと実感した。

 

 

 

 

   「CANON」より 表題作    『カノン』 171×91cm  祭壇縁

                              1991年 制作

 

 

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鎌倉の人形館でスケッチをしている時、パッヘルベルのカノンが掛かっていた。それをタイトルにした。

                             前本利彦

 

 

 

 

 

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                           二十日を過ぎると 山茶花が咲いた

 

大好きな花 山茶花が咲くと幼い頃を思い出す。毛糸の襟巻に手袋 すっぽりと耳を覆う可愛い帽子 オーバーに長靴下 そして靴下止め。東京の冬は今とは比べ物にならないほど寒かった。そんな格好で学校へ通っていた道すがら毎日見ていた山茶花の花。

小さな花を子供の椿と呼んでいた。人懐こく 物静かな古くからの友人。

 

 

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紅葉の森に落ち葉散らしの北風が吹き 唐松の葉が 驟雨のように降りそそぐ日が続いた。散歩に出ると 犬も私も全身に針葉樹の枯葉を浴びる。それが何故か楽しい。原始的な楽しみ。同じように犬もはしゃぐ。そして黄金色の木々の間から稜線の厳しくなった冬山が見える。

 

 

 

晩秋を迎えると 決まってルソーの 「フットボールに興じる人びと」が見たくなる。

 

 

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私には

自然のほかに師匠はなかった。

           ( アンリ・ルソー) 

 

 

 ルソーの墓地には碑が建てられ 彫刻家ブランクーシの手で刻まれたアポリネールの詩が偉大な画家を讃える

 

        やさしいルソーよ

        わかりますか

        私達の敬意が。

        ドローネーと奥さんとケヴァルさんと私とで

        私達の荷物を天国の税関から免税で通して

        筆を絵具をカンヴァスを君に届けましょう

        まことの光の中で聖なる余暇に描きたまえ

        私の肖像を描いたように

        お星さまの顔を

 

 

 

 

 

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                                     十一月もそろそろ終わり 明日は雪になるそうだ

                                             束の間の秋が終わった。

 

 

 

 

 

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予報の通り11/24は雪 十一月中に雪が降ったのは54年ぶりなのか・・・

朝 窓の外は雪景色に変わっていた。六回目の冬を迎え この光景も見慣れたものとなった。

 

 

 

 

 

                                                                  ⛄