第三十六章「鳩のいる花々」2019・9

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九月も半ばになった。ようやく秋らしい夕空が見られるようになって 野の花が咲き出した。

 

 

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山に自生する野の花は 笹に阻まれてなかなか育たない。この笹をなんとか撲滅して  原っぱを作り そこに野の花が咲いてくれることを願って 笹を刈り続けた。十年近く経ち ようやく様々な花が咲くようになった。薔薇庭の横の西側に 昔の原っぱに似たような長閑な庭が出来た。

 

 

 

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昔 秋は芸術の秋であり 読書の秋であった。今でもそのようなことを言うのだろうか 忘れられた言葉のように思える。どちらにしても 文化の香りは失せてしまった。私はもう何年もここから離れたことは無く 電車に乗ることもなくなった。以前用事で行った新宿駅のことを思うと まっぴらだと思うのだ。駅に降り立った私を 目立ちたい 褒められたい 得したい あわよくば儲けたい 着たい 食べたい モノが欲しい という欲望の大合唱が取り囲んだ。私は既に都会には居られない人になった と思った。

早く山の見える家に帰りたかった。

 

 

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それにしてもどうして文化の香りがしないのか。経済を発展させるために文化を切り捨てたのだ。声を失っても人間になりたかった人魚姫のように 日本がどうしても手に入れたかったのは経済大国だったのか。人間はそんなに単純な生き物ではない。一見飯のタネにはならないような文化といったものを切り捨てれば 必ず精神に支障をきたすのは解りきったことなのだ。食欲と物欲を満たす事に終始すれば 虚しい気持ちは募るばかりであろう。人間の空虚を満たすのは 自然と芸術である。

 

漫画やアニメ イラストのような絵ばかりの現代の美術に これ程深い虚しさを癒す力はない。漫画やアニメが悪いといっているのでなない。それぞれにその特性と役割があり それぞれは違う分野のものなのだ。それを混同しては それぞれが意味を失う

 

 

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現代に文化と言うべきものがあるとすれば それは大手広告代理店のでっち上げたものである。金儲けの目的で作られただけの文化に 人々は知らずの内に染まってゆく。

マスコミに美術評論家 大学教授 美術館のキューレーター 全てお金を儲ける為に奔走する。私にはどうする事も出来ないが その噓を見抜くことはできる。本当に芸術を宝と思って大切にしているとは決して思えない噓を見抜き 自分だけはそのいい加減な風潮に翻弄されないよう せいぜい教養を積んで精進するしかない。

 

 

 

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日本画に必要なのは洗練された人生を歩んで行こうとする作家の意志である。では洗練された人生とは如何なるものか。

 

人生の困難に直面し 自らの知恵と教養でそれを克服した時 その人の人生は洗練される。人生とは 常に苦渋に満ちている。どの様な人の人生も同様である。何とか苦労しないで楽に生きたいと思っても それは絶対に叶わぬ。苦しい 悲しい寂しいと感じる事があるのは当然だが そこから逃げていては人生はちっとも良くならない。むしろもっと虚しく どうしようもなくつまらない人生を送ることになるだろう。

大切なのは自分の力で困難を乗り切ること 他から「元気を貰おう」などと考えないことである。何かを貰おうとするのはさもしいことだ。元気を貰おうといった流行り言葉を大人が使うものでは無い。

勿論 助けてくれる人や物事はある。しかし最初からそれを求めないことである。

積極的に困難に立ち向かう姿勢を先ずは取るべきなのだ。

 

困難は人生の余計なものを洗い 練り上げる。こうして人生は洗練されるのである。

表面的でつまらない文化などが寄り付かない 強固な自己 それは幾度となく洗い 練り上げてきた人生を過ごした者だけが持つことが出来るものである。それはしめやかな菊の香に似て しんみりとそこはかとなく そして真の強さを持った 美しさであろう

 

 

 

 

 

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