第三十八章 「十一月の薔薇」2019・11

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                                                          「十一月の薔薇」8号

 

 

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十一月は昨年同様 暖かい日が続いた。晩秋から初冬の趣に変わるのは月末になってからである。流石に冷え込む日も増えて 隣の家に鹿の一家が朝食に来るようになる。いよいよ冬眠の準備をしているのだろうか。ほっそりとした若鹿はおっとりとして カメラを怖がらない。

 

私の庭にもキツネが来るようになった。薔薇に寒肥をやり 根方を覆う緩衝材を杭で止めるのだが その肥料を食べに来る。固形肥料は油粕や骨粉が入っていて香ばしい。そのにおいに誘われ 鼻先がようやく入る程の柵の隙間から滑り込むらしい。この年になると百本近い株のマルチをするのは大変なことだ。それを片端からひっくり返されて肥料を食べられるのではかなわない。以前にもこんなことがあった。しかし 今年は格別の被害である。来年は柵に細かい網を張ろう。今年はもう仕方がない。肥料がなくなれば来なくなると諦めた。

雨でふやけて発酵した肥料をキツネは食べない。乾いたカリカリがおいしいのだ。雨が続いたのでやれやれと思って朝カーテンを開けると やっぱり緩衝材は剥がされて粉々に食いちぎられている。ブクブクになった肥料は遠くへ飛ばしてある。

 

私は毎日元通りにする。キツネは毎日やってきてめちゃくちゃにして行く。

それを繰り返すうち 私は何だかキツネに親しみを覚えるようになった。

そもそも それがタヌキや野良猫やイノシシではなくキツネであることをどうして知ったかといえば 夜の庭から飛び出してきたそのキツネと私は30㎝程の至近距離でぶつかりそうになった。

月の明るい夜 私は犬を連れてゴミ箱まで行った。その帰りである。犬もキツネも一瞬凍り付いて声も出ない。真っ直ぐに後ろへ伸ばした立派なしっぽは怒った猫のように膨らんで そのまま走り出した。長くふさふさとした尻尾を月光が青く照らした。一度だけ後ろを振り返った後 暗黒の森へ入っていった。孤独で厳粛な獣の威厳と共に 青く光った重たげな尻尾とつぶらな瞳にいじらしさを感じた。

 

庭を片付けながら あのキツネが夜中の薔薇庭でひとりで遊んでいるのを思い描いて嬉しい気持ちになった。キツネにしてみれば只お腹が空いて食べ物をあさりに来ているのかも知れない。雨でふやける前のあの香ばしい美味しい物はもうないのかと探しているのかも知れないし 緩衝材を粉々に引きちぎったり プラスチックの杭を遠くへ飛ばしたりして遊んでいるのかも知れない。雪が積もれば来なくなるのだろうか。私はキツネと話が出来れば良いと思う。

 

 

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      秋はこの様な傘雲がかかることがある。呑気な風景。

 

 

 

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紅葉を描いた絵はどれもお土産の絵葉書の様なのはどうしてだろう。鮮やかさを伝えることに終始して 本当の紅葉の美しさを観ていない。通俗的 私はこれが一番嫌いだ。

俗っぽい物として紅葉を捉えてはならない。八ヶ岳の紅葉は美しい。この様な自然をライトアップして人を呼ぼうとするのはなんと悲しいことであろうか。

 

 

 

 

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 日本画で一番いけないのは やはり俗なことだ。絵はその人そのものだ。俗っぽい絵を描く人はぞくっぽい。

 

絵を見るときは 清潔であるかどうかが大切だ。清潔さの無い絵は まず駄目だ。

心の弱い者は弱い絵を描く これも駄目だ。絵描きは個になれる強さが必要だ。

真剣になれない者は 言い訳がましい絵を描く。

自慢気な者は 得意になって描く。

 

離島で暮らす孤高の画家などもよくない。何処かに世を拗ねたところがある。

 

何かを打ち出してやろうなどといった下心のある者は 一番駄目だ。

 

繊細さとは名ばかりの安い感傷はもっと駄目だ。

 

 

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           絵は 静かにゆっくりと

 


           無心で描くものである

 

 

 

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