2017-01-01から1年間の記事一覧

第十七章 「前本利彦の人物画  No.1」2017・12

「春」屛風四曲一双 1993年 「装う女」 屛風四曲一双 1993年 いつかは前本の人物画について書かなければならないと思っていた。あまりにも大きなテーマであるのと 満足な作品写真が手元に無い事が私の決心を鈍らせていた。 今年の冬は例年になく寒い。早い時…

日本画の杜 第十六章 「野田村へ」 2017・10

秋になった。十月の始め 空気が冷たくなって夜の森から冬の匂いがした。今年の秋はとても寒い。寒いけれど 懐かしい冬の匂いは私の心に暖かい火を灯す。幼友達に出会ったように心躍る。季節外れの台風が去った後 富士山に初雪が降った。月末には木枯らしが吹…

日本画の杜 第十五章 「八千穂へ」 2017・9

九月になった。よく晴れた秋空に乾いた風の吹き抜ける朝 前本は小海線に乗って八千穂に出掛けた。家から歩いても行けるJR小海線の 甲斐小泉駅から一時間ほどで八千穂に到着する。 甲斐小泉駅には懐かしい電話ボックスがある。駅員の居ない駅は夏の間以外いつ…

日本画の杜 第十四章 素描 「朝顔」 2017・7・8

に 素描 「朝顔 青」 素描 「朝顔 桃」 朝顔の咲かない夏だった。前本の朝顔 夏の花々の素描で夏を偲ぶ。 薔薇が終わり 夏の花壇を楽しみにしていた私達は思わぬ夏を迎えることになった。梅雨明け宣言の三日後 七月二十二日 立木も割れんばかりの雷に心踊っ…

日本画の杜 第十三章 「硝子の箱の薔薇」 2017・6

「硝子の箱の薔薇」 6号S 私達が八ヶ岳に越してきたのは六年前の六月だった。葉山を出る時は梅雨空から小雨が降っていた。小淵沢に着くと快晴で 明るい陽射しに向かって伸びあがるように咲いた真っ赤な罌粟が ようこそと満面の笑みで迎えてくれた。見渡す限…

日本画の杜 第十二章 「牡丹」 2017・5

桜の四月 牡丹の五月 毎年毎年前本は桜を描き 牡丹を描く。何十年にもわたって描いてきた夥しい数のスケッチと 牡丹の作品は沢山あるのにどれも気に入らない。お目に掛けられるものは無いと申すので 今回は作品ではなく今年写生に行った牡丹園で前本が写した…

日本画の杜 第十一章 「山高神代桜」 2017・4

素描 「山高神代桜」 三月の終わりから四月の初めにかけて雪が降った。もう降らないだろうと思っていたのでうんざりした。この辺の人は誰でも もう雪は沢山だと思っている。神代桜の開花予想も外れた。 春の淡雪はあっけなく溶けて暖かくなり 桜も少しずつ咲…

日本画の杜 第十章 「山桜」 2017・3

「山桜」 6号F 暑さ寒さも彼岸までとは言え この辺りでは梅も桜も蕾のままだ。 一昨日 3月21日は雪が降った。 朝カーテンをあけると庭は真っ白な冬景色に逆戻りしていた。四月に入れば日中はストーブの要らない日も増えるが 天気予報はゴールデンウィークに…

日本画の杜 第九章 「早春の窓辺」 2017・2

第九章 「早春の窓辺」 「早春の窓辺」 8F 二月は雪の降る日が多い。北海道育ちの前本は雪の上でも アイスバーンでも平気で歩く。私はこのひと月程は 玄関の前の道へ出るのが精一杯だ。 勿論車の運転などもってのほかである。 庭にご飯を食べにくる鹿達をな…

日本画の杜 第八章 「ONE NOTE美術クラブ」 2017.1

第八章 「ONE NOTE美術クラブ」 2017・1・25 葉山に住んでいた事がある。 海沿いのその町は暖かくて いつも明るかった。十年以上前の事を思い出す。 ある日その人を見かけた。重たそうな黒髪が背中で揺れて 弾むような 不思議なリズムで歩いていた。すれ違う…

日本画の杜 第七章 「玉蔵院の庭」 2017・1

第七章 「玉蔵院の庭」 80号変形 1985年制作 新しい年になった。「絵描きに盆暮正月なし」と言われる。知っている限り、それは 本当だ。よく知っている絵描きは加山先生と前本の二人だが、盆暮正月は確かにない。 家にいれば画室以外に居場所はないし、画室…