2021-01-01から1年間の記事一覧

第五十三章 「甲斐駒亮月」

リトグラフ 「甲斐駒亮月」 秋が来て 晩秋になり 初冬を迎えた。菊が咲き 赤とんぼが飛び交い 森は様々に色を変え 木枯らしが枯木立を残して去っていった。そんなある日 かねてから預けていた前本の作品の複製版画が出来上がった。リトグラフになった作品は…

日本画の杜 第五十二章 「カモメ」 2021・9

九月になった。夏が終わった。と言っても今年は夏と呼べる日はほんの三日程だった。七月の半ばに梅雨が明けたのも束の間 再び雨ばかりで 八月の初めに晴れて ようやく夏が始まると思った途端 雨の毎日に逆戻りした。しかも寒い。朝からストーブを焚いた。西…

第五十一章 「蓮池浄夏」2021・7

「蓮池浄夏」30号 今年の3月迄成川美術館の個展に出品された「蓮池浄夏」は前本らしい作品であった。前本と私は 五十年来のつきあいである。人は 五十年以上付き合っても分からない事の方が多い。この作品が何故前本らしいのか。うまく説明は出来ない。前本…

第五十章 「箱根空木と兎」2021・5

「箱根空木と兎」 6月になった。2月の末に四十九章を書いたきり 3月 4月 5月が過ぎた。八ヶ岳に来て 電気の工事を頼んだ時 「ここは冬が八か月だからね」と言われた。全く実感が湧かなかった。今年初めて 本当に冬が八か月 春夏秋が残りの四か月をかろうじ…

日本画の杜 第四十九章 「古樹桜花」 2021・2

前本利彦 「古樹桜花」 30号 新しい年を迎えた。一月も二月も私は相変らず忙しく ゆっくりと考えるいとまも無いままに過ごした。 十二月は暖く 雪の無いお正月になるのかと思ったら 新しい年を迎える頃には雪が降り 氷点下になり 震えて暮らした。外には一歩…