2019-01-01から1年間の記事一覧

第三十八章 「十一月の薔薇」2019・11

「十一月の薔薇」8号 十一月は昨年同様 暖かい日が続いた。晩秋から初冬の趣に変わるのは月末になってからである。流石に冷え込む日も増えて 隣の家に鹿の一家が朝食に来るようになる。いよいよ冬眠の準備をしているのだろうか。ほっそりとした若鹿はおっと…

第三十七章 「昼の月」2019・10

「昼の月」 十月に入っても暖かい。こんな年は初めてだ。湿度が高く この辺りには居ない筈の蚊がいる。 赤トンボの群れが舞って 菊が咲き 森の向こうに月が掛かった。 日本画と言えば 月である。ここへ来てすぐ 前本は月を見ながら歩いて左足首をねん挫した…

第三十六章「鳩のいる花々」2019・9

九月も半ばになった。ようやく秋らしい夕空が見られるようになって 野の花が咲き出した。 山に自生する野の花は 笹に阻まれてなかなか育たない。この笹をなんとか撲滅して 原っぱを作り そこに野の花が咲いてくれることを願って 笹を刈り続けた。十年近く経…

第三十五章 「卓上の夏」 2019・8

「卓上の夏」 10号F ほうずき市が過ぎ 七月も終わろうとする頃 ようやく梅雨が明けた。駅までの道すがら 夏の花が賑やかに咲く。色とりどりの立葵がトウモロコシ畑の横に所狭しと植えられて陽を浴びる。勢いを増した畑の作物と 無造作にゴテゴテと植えられた…

第三十四章 「あじさい公園から」2019・7

「あじさい公園から」 15号F ことしは6月7日に梅雨入りした。このひと月ほどの間 晴れた日は数日で 霧は昼夜を問わず森を覆い 墨絵の中に居るようだ。寒い。そんな陽気でも山の花々は鮮やかな姿をみせてくれる。しもつけそうとオダマキの 小雨の中で見せる淡…

第三十三章 「とびだす絵本」2019・6

「とびだす絵本」 10号 5月の末に 郭公が鳴いた。今年の気候はいつになく不安定で とても寒い。6月の7日に梅雨入りしたがいつまでも晴れた日が続き肌寒い。朝夕だけでなく終日ストーブ を焚く事もある。朝霧が流れてくる。陽が昇ると清々しい風が晴天をもた…

第三十二章 「マリエッタストロッチの彫刻」2019・5

「マリエッタストロッチの彫刻」 五月も十日が過ぎてようやく桜が咲いた。 「庭に菫が咲くのも」西脇順三郎の詩が思い浮かぶ季節になった。白いレースの装丁が好もしい 懐かしい詩集。詩歌や和歌は 心に情緒を纏った前本のような人のためのものだ。情緒纏綿…

第三十一章 「文鳥と桜」2019・4

「文鳥と桜」 四月に入って雪が二回降った。半ばを過ぎても 朝から小雪混じりの寒風が吹く日があり 日陰の残雪は未だに消えない。桜は連休中には咲くのだろうか。 四月というのはいつもめちゃくちゃだ。夏の様になったり 雪が積もったりする。毎年のことなの…

第三十章 「パンジーと白猫」 2019・3

「パンジーと白猫」 家々の玄関先にパンジーの寄せ植えが並ぶ 都会の早春を思い出す。八ヶ岳では 三月に入ってから寒い日が続いている。パンジーなど何処にも見当たらない。梅も桜も固い蕾をつけたまま じっと黙り込んでいる。 パンジーは三色菫で ワインは…

第二十九章 「甲斐駒三月」 2019・2・18

「甲斐駒三月」 今年の冬は特別である。雪の無いお正月 雪の無い二月 雨も降らない。道は乾いて風で土埃が舞い上がる。春先の景色。 一月の半ばにみぞれが一度降ったきりで それもすぐに乾いてしまった。氷点下十度以下になるはずの二月に入っても春のような…