日本画の杜 第二十章 「八千草屏風」 2018・3

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                         「八千草屏風」四曲一双 部分

 

箱根芦ノ湖成川美術館」が開館三十周年を迎えた。館主の成川さんとも三十年来お付き合いをさせて頂いた事になる。本当に長い間 お世話になった。成川美術館に収蔵されている前本の作品は百点以上になるだろう。

 

始めて成川さんを見かけたのは 銀座の画廊であった。かなり身を窶し 古びた風呂敷に包んだ作品を抱きかかえるようにして 足早に裏玄関から出て行く姿は印象的であった。画商のひとりが あれが成川實だと言った。当時 山本丘人のコレクターとして知る人ぞ知る人物だった。

 

 

 

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その成川さんから電話があったのは ちょうど三十年程前 成川美術館を設立された頃ではないだろうか。前本は外出しており 私が電話に出た。成川さんは 私達が生活のためにアルバイトで描いた湯吞みの絵が気にいったので 同じ様なのを描いてもらいたいとおっしゃった。私は あんなので宜しいのでしょうかと答えた。「万葉集」に出てくる花を十二か月 十二客の湯吞みにプリントしたおもちゃのようなものを売る会社の インチキな仕事をした。二人で手分けして六か月づつ原画を描いて微々たる報酬を得た

成川さんはそんなものをご覧になったらしい。その話は 私の不得要領な応対のせいであろうか それきりになった。成川さんは忘れていらっしゃる事であろう。

 

 

 

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その後成川さんは色々な絵を依頼して下さった。人物画を描いていた前本が 成川さんに乞われるままに植物や風景を描くようになった。

今回展示されている「八千草屏風」は四曲一双の大作である。今回の企画展には この屛風を含めて数点の作品が展示されている。

 

 

 

 

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        会場の作品解説には 次のように書かれている。

 

『右隻に春の野辺の草花を、左隻に秋の山野草を配した華やかな金屛風の大作である。その上品な空間に、画家は春秋合わせて59種もの草花を描いている。

 春の花は福寿草、土筆、蕗のとう、ナズナ、菜の花、カタクリタンポポなど何処にでもある草花と、比較的珍しい矢車草、蛍袋などがある。秋の花もドクダミやオオバコ

夕顔やエノコログ草といった草花を含んでいる一方、コスモスや萩、桔梗などの人気種で均衡を取っ手いる。色彩の取り合わせは絶妙で、花の形も変化に富む。主張が強すぎない花たちを中心とした調和がさりげなく、それでいて花の配置と造形の工夫が多彩である。野に人知れず咲く花の小宇宙を愛でるかのような視線で描かれた自然讃歌で、馥郁とした花の香りが漂ってくるような作品である。

 ひとつひとつの花の描写は、自然の草花に親しみ、現物を前にした日頃の写生の成果に他ならない。また、画家の端正な表現力と絵の具使いの秀逸さは抜きんでており、変化に富んだ緑葉の発色、輝くような花色、殊に白と緑を中心とした色彩の美しさは最上のもので、画家の真骨頂といえよう。

 古代の万葉の美の象徴として詠われた八千草が引き継がれ、その現代版として、この金屛風に結実している。美しいタイトルに相応しい夢幻の草花は、花曼荼羅の如き浄土を沃野の小径、足元に見出しているのである。』

 

 

 

 

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成川さんのおかげで前本は自分の中にあって 自分では気付かなかった沢山の宝の箱を次々と開いてきた。人は自らの持っている全てを使い切ってこの世を去る事が出来ればそれこそが人生を全うする事ではないか と私は常々思ってきた。その手助けをして下さる方が 前本の人生に長い間寄り添って下さったのは 幸甚の至りである。

 

成川さんは画家を育み 鼓舞し 七十八歳の現在も精一杯生きておられる稀有なコレクターである。私はその力量を心から讃え 感謝を申し上げたい。

 

 

     成川美術館 「開館三十周年記念展 戦後日本画の山脈 第二回」

            2018年・3月16日~7月11日

                                               9:00a.m.~5:00p.m.

 

 

 

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                                                                                                                 前本ゆふ

 

 

 

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